貴方たちに出逢えたから









 いつだって一人だったんだ。どんな時も、どんなに苦しくても。




 どんなことでも同じでないと気がすまないのが人の常。それも、人間と妖怪の違いとなれば尚更だ。
 そして、それは犬夜叉に対しても変わりはなかった。


 妖しの血をひく卑しい子。そう人間には蔑まされた。妖怪達には愚かな人間共と同じ血をひく半妖として幾度となく殺されかけた。罵声と蔑みの中で育って、次第に心が歪んでいくのは目に見えたことだった。
  けど、その後の出逢いがそれを変えさせた。

歪んだままになっていた犬夜叉の心を真っ直ぐに治したのは、桔梗。

治った心を再び歪ませた、奈落。

そして――…かごめ。


 歪みを治すだけでなく、曲がりかけるたび、傷つくたびに癒した。今も、そうしてくれる。
 その後も色んなものに出逢った。
 まるで昔からの知り合いのように慕ってくれる、七宝。
 どんな時でも一行を支えてくれて、頼りになる弥勒。
 全てを失い、一度は敵として戦ったこともある、珊瑚。

 こいつらがいるから、生きて行ける。



 「犬夜叉――っ!!行くよ―?」
目をあけた。眼界の下には、たった今思い返していた少女の姿。そして、
「あんた、木の上で寝たりしても平気なんだねー」
「バカだから鈍いんでしょ」
「犬夜叉―っ、早く降りてこんか――い!!」
何よりも大切な、仲間たち。いつでも、本当に自分の身を案じてくれる。


 昔は、こんな軽い悪態さえ聞けなかったんだ


 「……うるっせえな、今行くんだよっ!」 
憎まれ口を叩く相手がいる――幼い頃には考えられないことだった。だから、余計に大切。 

 護りたい。
 
 ――いつか、この身が滅ぶまで――…


















 いつからだろう。この仲間と居ることのほうが、現代の生活よりも大切になったのは。



 最初は、こんな死ぬかもしれないとこなんて絶対ごめんだって思った。ここなんて、 いるのはやたら態度がでかくて何やるか分かんない犬耳の単純馬鹿と、あたしのこと桔梗と似てるとか言うおばーちゃんくらいなんだから。

 それがどんどん、本当の居るべき場所と同じくらいに好きなものになっちゃった。

 七宝ちゃん、弥勒さま、珊瑚ちゃんって順番に仲間も増えて。今では、他の何とも代えられないくらいに大事な、あたしの宝物。
 悩みだってあるんだ。桔梗のこともあるし、守られてばっかりの自分に腹が立つことだってある。
 だけど、いつだってみんなが支えてくれた。時には、あたしを頼ったりしてくれた。



 あたしも、それに応えたい



 もしかしたら、なんにもしてあげられないかもしれない。
 実際、なんにもしてあげられてないかもしれない。


 だけど、この仲間が好きだから。だから、ずっと一緒に居るの。


ね、みんな?
























 いつか、自分は右手に消える…幼い頃から知っていた。知っていなければ、あとで生きていけないからだ。知ることは生きること――知らなければ、馬鹿みたいなことで簡単に死ぬことになる。
 だから独りでいることにしていたんだ。知っていたから、解っていたから。


 …なんで、俺はここに居るんだろう?






 生涯、一人旅を続けるんじゃなかったのか。
 気づけば隣りに誰かが居て、声をかける相手が居て、自分を案じてくれる者も居て。

 今はそれでもいいかもしれない。誰かが一緒でもいいかもしれない。
 ―――――けど、その時が来たらどうするんだ。
 誰かと居れば、その者も巻き添えを喰う事になる。それだけは、絶対に許されない。

 …だったら離れればいい。また元のように一人になればいい。そうしたら、誰も巻き添えで死ぬことはない。

 一人で消える。たった一人、誰にも見届けられることなく。


 …それでいいと言ったら、嘘になる。だからといって、嫌だとは言わない。言えない。それは、ただのわがままだから。
 最初から覚悟は決めていたはずだ。目の前で父親が跡形もなく消えていった、あの時から。いや、ずっと前、から?自覚さえしないほど昔からなのかそれとも、もしかすると、…最初から覚悟なんて無かったんだろうか。

 ただ、運命には逆らえない。変える術は、一つだ。呪った当の本人をを討ち果たすことだけ。
 だから今日までずっと、それだけを頼りに生きてきた。それだけが頼るもの。強いて言えばあとは自分か。無いに等しい、頼るもの。


――そんな時、ふいに出来たもう一つの拠り所。



 頼ってもいいんだろうか?それを希望として歩いていってもいいんだろうか?

 きっと、彼らは止めはしない。あたたかく受け入れてくれるだろう。


 だったら少しぐらい、甘えたって…罪にはならない、よな?





 呪いに負けたとしても、悔いにはならない。本当の灯火に出逢えたんだから。

 ただその事実だけが、俺には嬉しい。
























 あのときは、目の前が真っ暗で……見えるのは、血と復讐の光だけ。


 何も、なかった。




 一晩。月が昇って沈んで日が全てを照らし始めた、たったそれだけの間にあたしの周りからは誰もいなくなった。

 いつだって里に帰れば居たはずの、みんなが居ない。父上も、琥珀も消えた。

 もう、何も感じようとはしなかった。ただ、全てを奪った奴への復讐心だけで生きていたから。


 ――…本当のことなんて、なにひとつ分かってなんかいなかったのに


 周りのもの全部が敵に見える。何も見えない。血の匂いと赤い鮮やかな色だけは妙にはっきり感じ取れて、余計に苦しかった。

死んだって構わない。
命が尽きるまえに、復讐を。

 そんなあたしを助けてくれたのは、みんなだった。新しく出来た、「仲間」。
 すぐには受け入れられなくて、戸惑ってばかりだったけど、慣れればそれなりにやっていけた。

 だけど、不安だった。
 どんなに誰が笑ってくれても、どんなに誰が手を伸ばしてくれても、…不安で不安で、…頼るなんて。


 それでも、こんなあたしなのに、みんな真剣に心配してくれて、一緒に居てくれる。
 嬉しいよ。
 嬉しかった。
 琥珀のことで何度も迷惑をかけたのに、変わらずに。それが、たまらなく嬉しかった。





 これからも、一緒に居てくれる?
 あたしが、みんなにどれだけ、何をしてあげられるかは分からないけれど。

 だけど、一番大切なものだから。



 もう復讐に沈んだりはしたくない。
 今度は、命のある限り――皆のために、生きてくよ。











                           --------------------End.
                       
 ●ブラウザの「戻る」でお戻りください。●