俺がその人に出逢ったのは、もうずいぶん昔になる。

 俺はなんにも知らなくて、なんにも要らなくて、ただ生きていればよかった。
 毎日同じことばかりしてたけど、ある日その人が現れて、いきなり言ったんだ。

「なあ、俺と一緒に行かねえ?」

 って。













 俺は、ついていく事にした。


















        
『The fireworks with blood.』















 なんでかな。別に理由があるわけじゃねぇんだけど。
 強いっていうのはまァすぐに分かったんだ。どう見たってかなり重そうな鉾を持ってたし、なんとなくの雰囲気が他とは全然違ったからね。

 でも、それよりも何よりも。

 言われて、その人の…まあ要するに蛮骨の大兄貴なんだけど、その目をじっと見た瞬間、背中がぞくっとしたんだよな。古い言い方をするなら“まるで稲妻が背を走ったかのように”ね。それで俺は、ついていこうと思った。
 何年か後に「あれって恋の予感ってやつだったのかなあ?」って本人に聞いたら、げんこつで思いっきり叩かれた。後頭部。おかげでその時いた古寺の床が陥没しちまって、煉骨の兄貴がめちゃくちゃ怒ってたのを覚えてる。だって大兄貴ってば、怪力のくせに手加減ナシで殴るんだもん。仕方ねぇよなあ。





 話を戻すけど、俺が大兄貴の問いに頷いたら、大兄貴は大きな声でやったあ・と声をあげた。そして、森にいそいそと引き返したと思ったら、また一人新しい奴を(半分引きずってたが)連れて来たんだ。頭に白布巻いて、目立つ刺青カオに入れてて。

 要するに煉骨の兄貴。

 「ホラ煉骨っ!こいつだよこいつ!見つけた仲間!!」
「ああ?って、この間森で見かけたとかいう奴か?」
「そうそうそれ!なっ、面白そうだろ!?」
わやわやと賑やかに言い合う二人を、俺は半ばぽかんと見つめてた。そしたら、煉骨の兄貴がふいっとこっちを見て、話しかけてきた。
 「お前、闘えるのか?」
頷くと、また聞かれた。
「聖人は正義だと思うか?」
首を軽く横に振った。兄貴は頷いて、また聞いた。
「名前は?」
大兄貴が勝手に割り込んだ。
「蛇骨だってよ、煉骨!じゃ・こ・つっ!!」
「うるさい少し黙ってろ」
 まあでも分かった、じゃあお前は今日から俺たちの仲間だ。そう言った煉骨の兄貴をしばし見つめ、そして俺は思わず本心を呟いた。

「……ハゲ坊主…。」





 次の瞬間、燃えさかるタイマツを容赦なく投げつけられて死ぬかと思った。
















 その後、俺は煉骨の兄貴に刺青を入れてもらった。まだちょっと睨まれていて恐かったけど、そばで大兄貴が「殺すなよ」ってずっとずっと(煉骨の兄貴が「うるさいどっか行ってろ!」ってキレるまで)言い続けていたから、一応信用してじっとしていた。

 「何色がいい?」
「色とか選べんの?」
「当たり前だろ。入れる塗料を選べば色だって変わる。ほら、大兄貴のと俺のとだって違うだろーが」
言われてみれば確かに違った。ふうん、と生返事っぽい返事をしながら、塗料の皿が入った籠を覗き込む。
 青、緑、赤。
 たったの三色?と聞いたら、混ぜるんだと言って小さい皿(色んな塗料を混ぜたせいでいくらか汚れている)を見せられた。なるほど、自分で好みの色を作れってわけ。
 「何を混ぜるか、選べ。別に単色でも構わんがな。」
「んー…じゃ、青と緑。」
「ふうん。赤は嫌いか?」
「別に嫌いじゃないけど、ほら。着物とお揃いだろ。」
「……なるほど。」


 出来上がった色は、見事なくらいに着物の模様とそっくりな色。もしかして絵とか好き?って聞いたら、絵を燃やすのは好きだと真顔で言われた。やっぱりこの人も常識人じゃないなと思った。
 ま、出会って一分でタイマツ投げつけられた時点で、薄々感づいてはいたけどさ。


























 数日後、会いに行く奴がいる、一緒に行くかと聞かれた。とりあえずヒマだからついていくと言ったら、大兄貴はやっぱり嬉しそうに笑った。なぜ笑うのか聞いたら、「仲間」が楽しくてたまらないから笑うんだ、そう笑顔で返された。

 俺には未だによく分からない。











 二人に付いてのんびり歩くこと約三十分。

 会いに行く予定があったんなら最初から近くに宿を取るとかしとけば良かったのに・と愚痴を言っていたら、やっぱり煉骨の兄貴が恐い顔して睨んできたので、やめたころ。

 「お、いたいた。お〜い!」
大兄貴が手を振った先に居たのは、いかにもな善人ヅラした若い男だった。もしかしたら俺と同じくらいの年齢、いや年上かな?今でもよく知らないんだが、まあそんな感じの奴。
 「な、なんですか、あなた方は…」
なんだ初対面か・と思ったら、大兄貴はぽりぽり頭を掻いて苦笑い。どうやらそうではないらしい。
「やっぱアンタは覚えてないわけね〜。でもこっちもアンタには用はないんだわ。」
相手は、周りにいたガキどもを慌てて逃がした。つくづく“善人”。なんの用があってこんな奴の所へきたんだろう、兄貴たち。
「そろそろ用のあるほうと話したいんだなー、お医者の睡骨サン」
「だ、誰と……」
「目ェ覚ましてもらおうか。」
 大兄貴が軽く合図すると、煉骨の兄貴がすっと何か袋を取り出した。それで、俺はやっと思い出した。昨日ぶっ殺した野党の中の一人の首を、わざわざ兄貴が袋に入れていたのを。
どうするのかと聞くと、兄貴は無愛想なまま答えた。

 “気付け薬だ。特製のな。”

 あの、袋だ。あれ。
 ぐっと大兄貴が腕を突っ込んで、すぐに抜いた。その手には思った通り、血のしたたる生首。もう血に漬かってほとんどどす黒く変色してたけどね。漬け物みたく。その袋、水気漏らさないように出来てたみたいだったから。
「ほら、大嫌いな血だろ?引っ込めよ、お医者サン。」
「う、わ……っ。」
 悲鳴を上げてわたわたしてたと思ったら、みるみるうちにそいつは変わっていった。急に体格が良くなって、顔がめちゃくちゃ恐くなって。
「よう。しばらくぶり。」
大兄貴が言った。そして、相手も返した。
「ああ、あんたか。」
「ったく、本当に面倒だな、お前。」
 話すのも一苦労だ、とぶつぶつ言っている大兄貴にはあまり構わず、相手は地面に落ちていた生首を拾って、笑った。
「もうちょっとマシなもんはなかったのか?」
「悪いな。俺も大兄貴も、面倒なことは嫌いなんだ。わざわざ死体から血だけしぼるよりは、首一つとっておいた方がずっと手っ取り早い。」
 やっぱり無愛想に言った兄貴に、まあ確かにな・と相づちを打つそいつへ、大兄貴が聞いた。
「で、どうする?一緒に来る?来ない?」
 少しだけ考えて、相手は言った。
「行こう。」













 「じゃ、そういうことで、蛇骨。こいつは睡骨、今日から仲間だ。ほら、アイサツ、アイサツ!」
急に振り返って明るく言い放った大兄貴をちょっとぽかんと見てから、改めて相手を見た。睡骨、か。しかしなんでこれだけ名前の似てる奴ばっかり。
 「へえ。こんな奴、いつの間に入ったんだ。」
そいつが大兄貴に聞いて、大兄貴はついこの間だと答えていた。俺は、やっぱり本心を正直に言ってしまった。

「…今の顔よりか、さっきのお医者の方が俺好みのカオだったんだけどな…」





 睡骨が無言で腕にカギ爪を付け始めたので、俺は慌てて大兄貴と蛮竜の後ろに隠れた。























 それからは結構オモシロイ生活が続いた。仲間も増えた。

 殿様に毒を盛って城医者をクビになり、腹いせにその国全部を毒で覆って滅ぼしてしまおうとしていた霧骨。ちょうど毒を混ぜているところを、大兄貴が見つけて仲間にした。もちろんその国は五人全員で潰した。ちょっとした入隊祝い。

 戦の跡で死にかけながらも、喋るだけの力があった銀骨。もう傷だらけで、腕は片方ないし、下あごも砕けていた。なんで生きていたのか今でも不思議だ。でも大兄貴はその生命力を買って、仲間にしてやった。手当てと改造を煉骨の兄貴がしたら、普通に動き回っていて本気で驚いた。でも完全に人間じゃないよな、アイツ。今もそうだけどさ。

 山の中で適当に旅人なんかを襲っていた凶骨。それだけならただの野党だし、さっさと殺してしまうところだったが、あいつは大きすぎた。面白そうだから仲間にしとこうと言う大兄貴に、特に反対する理由もなくて、仲間にすることになった。あれが正しかったのか間違っていたのか、どうにも判断は難しい。ただ言えるのは、あの時凶骨に会っていようがいまいが特に俺たちに支障はなかっただろうってことだな。せいぜい名前が六人隊とかに――…うっわ、語呂悪っ。やっぱいたほうが良かったのかな?人数あわせには…、ちょっと可哀想かもしれないけど。いや、あんまりそう思ってもないんだが。















 そんなこんなで好き勝手にみんなで殺していたら、いつの間にか“依頼”がくるようになった。人殺しの依頼。連中、強いからとか、腕を見込んでとかなんとか言ってたけど、どうせ理由なんか一つだ。どいつもこいつも自分の手は汚したくないからだよ。
 全くいい気なもんだぜ、殿様なんざ。血を流すのはいつでも家来、それにその城下の農民どもだ。なのに“強さ”が欲しいと言う。そして俺たちみたいな奴にだって頭を(もちろん家来が、だけど)下げて頼みこむ。どうか、相手の人間たちを皆殺しにして下さいってね。


 ああいう奴らは、一度血をかぶってみるといい。人の血の臭いを、色を、温度を、肌で感じてみるといい。


 そう思っていたけど、堂々と人を斬れるのは楽しかったし、報酬もあった。だから特に抵抗も、まして断ったりもしなかった。

 そうして毎日は、俺たちにとっては当たりまえみたいに過ぎてった。




























 俺が刀を振ると、五、六人が一気に真っ二つになった。ぱっと血の華が咲く。

 睡骨が近くの人間に向かってひゅんと腕を振れば、相手の腕や肩が鎧ごと細切れになった。相手がうめく間もなく、その背には銀骨のヤリが刺さる。

 煉骨の兄貴が火の網を投げると、一面の人間たちがあっという間に火だるまになった。なんとか逃げようと網から出た瞬間、凶骨の巨大な手が待ち受けている。一瞬でほんとのノシイカ。じわじわと土に血が染み入るのが、手の隙間からちらっと覗いていた。

 血の飛沫が飛び交う中、ふわりと大兄貴が舞った。腕の先では蛮竜が当然のようにうなりをあげる。地面についたと思ったときには、その周囲の人間が全員血まみれだった。へへへ・と大兄貴が笑った。






 「なあ、大兄貴―!」
俺が呼ぶとすぐに振り向く。その背後では、相変わらずに腕や首が単独で飛び交っている。
「なんだぁ?」
「綺麗だな。」
「ああ?」
「この光景さ。」


 見渡す限りの荒野、そして紅く散る華々。“まとも”な奴らには反吐の出る光景かも知れないが、俺にとってはこれこそ桃源郷と言ってもいい。

 真実も真理もいらない。ただぱっと見て綺麗ならそれでいいじゃねえか。

「ね。俺たちが創ってるんだよ。」
「はは……そうだな。」
 みんなが軽く笑った。知らない誰かの声で、「狂ってる」と言うのが聞こえた。すぐに同じ声で断末魔が響いたから、どうでも良かった。
 でもちょっと死体が邪魔かなとか思っていると、淡い桃色の煙が地を這ってきた。一緒に死肉の溶ける音。即座に後ろに飛び退く。
「へへ……邪魔だろ?こいつら。特別配合で綺麗な色にしてやったんだぜ、この毒。」
「うん。ありがとな、霧骨」


 本当に、色んな奴が集まったもんだ。














 俺や大兄貴、凶骨、睡骨なんかが振りまく血と、煉骨の兄貴や銀骨が咲かせる火の華、そして霧骨の霞みたいな毒煙。
 どれも穢れているはずなのに、どこまでも澄んだ色に見える俺って病気?いや違うね、綺麗なもんを綺麗と素直に思えない奴がホントの病人だろ。

 「花火みたいだ」

 赤い色が少し多めだけど、時々は青白い火花も散るからちょうどいい。





 俺たちの花火だ。夜空に咲け、もっと咲け。



 打ち上げる音の代わりに命乞いの声と断末魔。

 火花はたくさんの血の緋色、それから火の海の朱い色。

 火薬の匂いはちゃんとしてるよ、煙だって吸ったら死ぬけど一応たってる、しかも桃色。








 ね、綺麗だよねぇ?

 これを見るために今俺らはここでこうしてるんだから。そうだろう。


 なあ、そうだろう?

















































 俺らの宴は俺たち以外に動くものがなくなるまで続いた。毎晩、毎晩。

 そのうち、今まで散々アタマ下げて俺らに人殺しさせてた連中が急に化け物見るみたいな目で俺らを見るようになって、始末しにかかってきた。しばらくは全員返り討ちにしてやったけど、まああれくらいが限界ってやつか。俺たちはみんな結局首斬りだ。へっ、笑えるったらありゃしない。















 目の前が真っ暗になってなんにも考えられなくなった後、どのくらい時間が経ったのかよく分からない。急に土の冷たさが肌を刺して、目が覚めた。
 瞼を上げると、俺をのぞきこむ大兄貴と煉骨の兄貴。てっきり、俺が矢を受けて倒れた後、討伐隊の連中を二人が全員片付けてくれたのかと思ったよ。だって俺、目を閉じる前と全然変わってなかったんだもん。ただ一点、いる場所が廃屋の前じゃなくて土の穴ん中だったこと以外はね。


 「何、これ。土まみれじゃん……大兄貴、連中は?倒したの?」
「あのな。いくら俺だって毒矢受けて一回抑えられたあとじゃ五十人近くも皆殺しにゃ出来ねえよ。」
「よく聞け、蛇骨。俺たちは一度死んだ。それはお前も覚えてるだろ。確かに一回は死んだんだ。」
はあ?と素直に気持ちを声に出す。俺ってホント終始一貫て感じだよね。死ぬ前と変わんないでしょ、思ったことすぐ言うとこら辺。
「じゃあなんだ、ココって極楽?あ、それとも地獄とか??」
「阿呆。どちらでもねえよ、ここはこの世だ。俺たちゃ生き返ったんだとさ。」
「うん。なんかな、奈落って奴がよう、俺にシコウのかけらとかいうのを…」
「大兄貴。シコウじゃない、四魂だ、四魂。」
「あ、それそれ。そのナントカって(ここで煉骨の兄貴がもういい…と小さく呟いた)やつをな、俺に仕込んで、ついでにお前らの分も渡してくれたんだ。それのおかげで俺たちみんな生き返られたんだとよ。」
 いまいちよく分からなかったけど、重要なのは今俺がこうして生きているってこと。ふうんと小さく返しただけで大して追求もしなかった。ほとんど肌蹴てた着物をちゃんと着直す。
 「んじゃな、煉骨。蛇骨。俺もう行くわ。」
「え?どこに行くんだ?」
「なんかやりたいことでもあんの?あ、蛮竜ないね、取り返しにいくとか?」
「さあ。とりあえず、俺らはうろつけって言われてるから。」
「は?誰に…」
「だから、奈落って奴に。犬夜叉って奴と鋼牙って奴に会うまでだとさ。んじゃな〜、睡骨や霧骨たちもちゃーんと生き返らせたげてくれよー!」
「ち、ちょっ……」


 大兄貴はいつだってマイペース。見てて本当、飽きねーわ。























 その後のことはだいたい分かるだろ。犬夜叉やらなんやらと会って、ほんのちょっと闘っただけでまたこうして俺は土の中に逆戻りだ。へへ、阿呆らしくって笑えちまうわ。
 しかも前より状況ヒドイかも。下半身ね―し。


 でもなあ。ちょっとの間だけど、もう一度見れたしね。

 俺たちの華火。








 煙はない。血もちょっとだけど足りなかった。
 でも俺たちの色。俺たちの華だ。俺たちが毎日まいにち見たくてたまんなかった、大事な大事な花の色。














 やっぱ、楽しかったよ。楽しかった。俺はずっと、…みんなに出逢ってから、ずっと。
































 …あれ、なんだ。煉骨の兄貴、いたの?ねえちょっとぉ、なんか喋ってくれてもいいんじゃね?
 ねェ、兄貴。
 兄       貴っ   て              ば


                         …へ?



































 薄緑色に簪が光り、血に濡れた刃が微かな火の明かりに煌めいていた。布の間に、白い骨がちらりと見えて。



 他には、何もなくなった。
 何も。


















                   -------------------------------End.
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 私の書く七人隊は、中学で友達と学園設定とかいっぱい捏造して漫画描きまくったお蔭でやけにフレンドリーです。特に蛇骨の別人具合が激しくて…; 蛮骨と錬骨が大好きですぐべたべたします。ただし、どっちかというと子供がお母さんにべたつくみたいな感じで…。錬骨がお母さんで蛮骨がお兄ちゃんですか。妄想しすぎですね。すいません(ぇ
 あ、おんなじような感じで下手すると犬一行とも仲良しになるので要注意です。だから蛇珊とかハマッたりしたんですけども(ぉぃ)


 しかしここまでフレンドリーとか仲良しとかべたべたとか語った割に、本編が暗すぎですな。血みどろ注意・と前置きするべきかも…;;