居場所








 「ねーねー、この樹、願い叶えてくれるんだとよ!やってみよーぜー。」
「馬鹿言え。んなもん叶うわけねぇだろ、大体お前の願いって願掛けでもしないと叶わないようなもんなのか。」
「あぁ。多分ね。」
「何願うんだ?」
「そーだなあ、色々あるけど、やっぱり……」



 ほんの、数十年前のことだった。











 「願掛けの、樹?」
「だそうですよ。でもその話がまた面白くてね…」
話す法師はとても愉快そうだった。

 「なんでも、樹の精霊が相当真面目で、願われると叶えずにはいられない責任感の持ち主なんだそうです。でもそうなると、必ず願いの叶う樹だと言ってたくさんの人がお願いするでしょ。追いつかなくなったんですって、叶える作業が。」
「で、順番か。」
「そ。たまりすぎて、もう今から願っても叶うのは何十年も後だとか…はは、それでもお願いする人はするみたいですよ。何十年も後って辺り、叶わなかった人が自分を慰めるために流した噂のような気もしますがね。」
「なんでい、そりゃ。結局叶わねえんじゃねぇか。」
「良いじゃない。何十年後でも叶うって言うなら、願ってみたいと思うわよ。」
「そういうかごめさまみたいな考えで皆さん願掛けするようですよ。で、どんどん“順番”は増える・と。」
「しょーもねー。行こうぜ行こうぜ、こんなとこ居るだけ時間の無駄だ。」
そうして早くも飽きた犬夜叉に釣られ、一行のメンバーの足も動き始めた。が、その時、
「?」
退治屋の少女だけは、一瞬足を止めて、そして首を傾げるとやはりまた歩き始めた。


 おかしいな。
 声が、聞こえたと思ったんだけれど。

 借りるよ、って。







 もうすっかり火の衰えた囲炉裏はそれでもほの明るく、しかしそれも朝日のためにもうすぐ用無しとなるであろう、夜明け時。
 「おぉ!?」
突然、頓狂な声が上がった。瞬間目覚めるのは耳ざとい犬夜叉と眠りの浅い法師であり、そして本来なら気配に鋭い退治屋も覚醒するはずだったが声を上げたのは当の退治屋だったためにそれは無かった。上半身を起こし、自分の腕やら周りやらをきょろきょろと見回している。
「珊瑚!?なんだ、なんかあったのか!?」
「どうかしましたか、珊瑚?」
「なぁに、犬夜叉今叫ん……何。どうしたの?犬夜叉も、弥勒さまも……珊瑚ちゃん?なんできょろきょろしてんの?」
 やっと起き出したかごめも、珊瑚の妙な動きにぱちぱち瞬きをした。そんな彼女の声には反応せず、しかしその瞳はそれまでとまるで違う輝きを帯び始める。
「…っわ、わぁぁぁぁ!!」
「な、何!?」
「なんだよ!?」
「どうかしてしもうたのか、珊瑚!?」
仲間たちは極々真剣に訊ねたが、珊瑚はやはり反応しなかった。ひたすら自分の世界に入っているようである。
「やったぁぁっ、生きてる!マジで生きてやんの、俺ぇ!!」
「へ!?」
「“俺”!?」
「どっ、どうかしてしもうたのかホントにっ!?」
「さ、珊瑚……!?」
そしてやはり仲間のリアクションを完全無視して、くるりと彼女は勢い良く振り返った。思いっきり不審気に顔をしかめている、犬夜叉の、ほうへ。
 そして、
「うわぁぁいホントに本物の犬夜叉だぁ――っ!!」
 思いっきり、抱きついた。


 「なななな何をっ……」
精一杯に顔を真っ赤にして慌てる犬夜叉に、珊瑚は不満げに顔をしかめる。
「やっだなー、まぁだ分かんない〜?」

 全く皆目全然分からな、いや、なんとなく分かる気もするが分かりたくないというかなんというかその、あの。

 そんな文章が一行の脳内を駆け巡ったが、その思いを無視して珊瑚はにやりと笑い、声高々に言い放った。

 「俺はねー、今どんな顔してんだか分かんねぇけど、中身は蛇骨!七人隊の蛇骨だぜ?」



 悪夢ならば覚めてくれ。
 弥勒も犬夜叉も、血を吐く思いで心中、そう叫んだ。








 「なんでって言われてもねぇ。なーんかちょっと前まで覚えてた気もするけど、忘れちゃったぁ。」
「忘れちゃったぁ・で済まされるかこのボケっ、珊瑚どこにやったんだてめえ!!」
ようやく珊瑚を、いや中身蛇骨の珊瑚を引き離した犬夜叉は怒り心頭で怒鳴りまくる。先程からこの押し問答は延々と続いていた。と言ってもまだ五分ほどのことであるが。
 「ホント、ともかく、珊瑚ちゃんが見つからないと…まさかあんたと入れ替わりであの世に行ったとか言うんじゃないでしょうね!?」
「ん〜多分だいじょぶだと思うけど。っていうかなんか腕細くって妙な感じだなー、ねぇ、蛇骨刀ない?」
「無いっ!」
 一喝され、ぷう、とふくれながら少し黙る。が、すぐにまた口を開いた。
「そういやここ、なんか見たことあるなぁ。」
「え?」
「う〜…ずうーっと昔に、一回来たような…えぇと?」
頬を掻きながらゆらっと立ち上がり、のろのろとお堂の出口へ向かう。その仕草に退治屋の凛々しさは欠片も感じられなかった。代わりに漂う、どこか気の抜けたような、それでいてなんとなく嫌な感じのする空気。
「……あ。」
そして外を一瞥した瞬間、彼は言った。
「思い出した。俺、あの樹に連れてきてもらったんだ。」







 数十年前、蘇る前の一度目の人生の願い事。
 仲間たちは笑って相手にしなかったが、蛇骨だけはこっそり願っておいた。



 いっぺんくらい、女の身体になって遊んでみたい・と。








 「…で、どうする?」
「どうって…どうしよう。」
「ま、とりあえず……」
そこまで押し黙っていた法師は、すっと双眸を細め、樹を睨み、言った。
「追い出しましょうか。精霊。」


 ばさ、と、呪符の束を取り出した。








 「あーくそ、樹ごと吸い込むぞてめえっ!」
しばらく試行錯誤していた弥勒がついに切れ、そう怒鳴った瞬間、樹がざわついた。次いで聞こえるしわがれた声。





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 かなりお遊び的感覚で始まってしまってますが…これ、結構だんだん真面目になりますよ;ちなみに要素的にはミロサンというよりは蛇珊です(汗)珊瑚総受けもけっこう好きなんで←馬鹿

 こういうコメディタッチのは書いたの久しぶりだったので楽しかったです。ただ続けると長そうなので…どうしようかな、みたいな<<優柔不断め

 気に入ってますよー!<必死