『プリンセス・オブ・マーメイド』
















 「お前ならどうでしょうね」

「何が?」

「これ」

「…かごめちゃんの持ってきた本じゃないか」

「これ、この絵、この女人は人魚姫というらしいです」

「人魚…ああ。見たことあるよ」

「……は?」

「これ外国のだから違うのかな。実物はこんな可愛くなくてね、もっと魚っぽい、気持ち悪い顔してた。割と気性も荒くって手こずった覚えが、」

「…いやまぁ夢の無い話は置いといてですね。この話の中では人魚というのは綺麗で健気で優しいものだそうです」

「ふぅん」

「で、その人魚が王子とやらに恋をしたそうですよ」

「おうじ?」

「大名の息子みたいなもんですかね、察するに」

「へぇ。でも人魚だろ?魚だろ?陸、上がれるの?」

「…魚って……いや確かに上がれません。でも王子が船の上で宴を催したもので、それで一目惚れらしいですな」

「…そんなことってあるのかなあ」

「まあ私も結構はしょってるので、その辺は納得しといてくださいよ。それでですね、人魚姫は好きな王子に少しでも近づきたくて、歩ける人間の足をもらいに鬼女じみた人魚の所へ行くのです。」

「足を?…斬ってくっつけるの?」

「……お前はどっかずれてるんですよね…違います薬をもらうんです、とりあえず童話なんだからそこまで拘らないこと」

「はぁい」

「でも薬のためには声を渡さないといけません」

「何それ」

「人魚姫はこの世に二つと無い美しい声なのだそうですよ」

「へぇ」

「そこで問題です」

「は?」

「お前ならどうします?」

「…あたしが人魚?」

「そして私が王子」

「…自分で言うなよ」

「まぁまぁ。で、答えは?」

「…もらうよ、そりゃあ」

「……本気ですか?」

「なんだよそこまで目ぇ丸くして訊き直さなくたって良いだろ別にっ!…もらうさ。だってもらわなきゃ法師さまとはもう逢えないんだろ」

「多分ね」

「なら、何と引き換えにしても私はもらうと思う。……声なんか惜しんで法師さまと逢えなくなるなんて、嫌だもの」













 「…なら、次の問題。」
「……なんで微笑ってんのさ。」
















 「喋れない不幸な娘としてなんとか王子に城へ連れて行ってもらった人魚姫。」

「意外と軽い王子だね、見ず知らずの娘さっさと引き取るなんて」

「いや軽いとかそういうんじゃないと思いますけど…とりあえず人魚姫は幸せです。でも人魚姫は鬼女との約束で、王子と結ばれないことには海の泡になって消えてしまいます」

「…不公平じゃない?もう声とかやったんだろ」

「まぁまぁまぁ…で、だけど王子は他の女と婚約してしまいました・と」

「えぇ?」

「このままでは人魚姫は海の泡。」

「…主人公なのに?」

「そういう問題じゃないんですけど。…そこへ姉の人魚達が海から現れました」

「陸には上がれないんじゃ…」

「あ、婚約記念に船の上でまた宴やってたんです」

「宴が好きな王子だなぁ」

「いや違うと思います……で、姉達は短剣を差し出します。自分たちの髪の毛と引き換えにお前を泡にさせない方法を鬼女から聞いてきた、この短剣で王子を今晩中に殺しなさい・と。」

「…なんだって?」

「さてお前ならどうしますか」

「……楽しそうに眺めるんじゃない」

「だって楽しみですもん」

「…殺さないっ」

「はい?」

「殺さない。絶対に、そんなことじゃ法師さまは殺さない!」

「じゃあお前は海の泡になって消えてくれるんですか?」

「消えないよ」

「…はぁ?」

「消える前にどうにかして海に潜って、その鬼女の喉かっさばいてやるから」

「……」

「きっとそれってその鬼女の呪いみたいなもんだよね。だから、きっとそうすりゃ死ななくて済むんじゃないかと思って」

「…いや……」

「大体そいつが欲ばりなんだよ。ちゃんと足の代わりに声をあげたのに、なんでその上想いが通じなかったからって命までやらなきゃなんないのさ」

「……あれ、そんな話だっけこれ」

「それにね」

「ん?」

「それに私、言葉が無いからって法師さまが私の気持ちを読めないなんて、ちょっと想像つかないの」


 くすりと微笑って。


「だっていつも、読んでほしくない時まできっちり、思ってることぜんぶ読まれちゃうもんね。」








 だからこんなおはなしのこんなおしまいはありえないんだよ、ほうしさま。











「…そう、ですか。」


彼も、嬉しそうに微笑う。





























 にんぎょひめはことばのつうじないきれいなおひめさまのかなしいおはなし



 ことばがつうじないばっかりに、じぶんがあなたをたすけたの・なんていえなくてすこしもつうじあえなかったかなしいひと


























 けどそんなの言い訳じゃない?



























 あなたならきっと目だけでわたしのすべてを分かってくれるって知ってるのよ。いつもいやって言うほどわたしあなたに見透かされてばかりだから、いやって言うほど知ってるの。
 それに、それでなくたって、わたしはきっと想いを伝えられると思う。人が人に気持ちを伝える方法は、決して言葉だけじゃないのだから。

 何と引き換えにしてもあなたに逢いに行く足を手に入れるように、何と引き換えにしてもあなたと通じるものを。






 待ってるだけじゃ駄目って、色んな人に何回も言われた







 せめて、待つ以外のことを。届くのを待っていて最後には泡になるのを待つしか出来なくなるなんて、そんなの厭。
























 だからわたしはにんぎょひめにはならないよ



































 「ねえ、私達は童話の主人公には向かないね。」

「ええ、全く。」

「でもそれで幸せ」

「…ええ、全く。」


















                              --------------End.
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 前から書いてみたかった会話主体の小説。これはホントに気に入ってます。特に手直ししたとこもありません。。
 とことん現実主義な珊瑚嬢は書いてて楽しかったです(笑) この二人がああいう御伽噺を読んだらどう思うのかなあ・と思ったところから書き始めました。まぁ結局現実が一番好きなので(私も)、二人もそれを一番大切に思ってくれたらなぁ・という感じです。。


 背景画像はこれも前から一度使ってみたい・と思っていた品。化粧品のケース型の海。どんな話にならこれを付けられるだろう・と思ってたんですが…予想以上に合って良かったv