『何も無い闇に終りを告げる.』


















                               時々、夢を見るんだ。
                               見えない夢。何も見えない。


                               けど、『夢を見ている』。





















 初めに、不意に体の感覚が戻ってくる。それまで眠りに任せて手放していたはずのそれがふわっと現れて、とりあえず目が覚めてしまったのかと思って目を開ける。けれど、何も見えない。真っ暗。自分が本当に瞼を上げているのかどうかを疑いたくなるほどの、暗闇。

 本当に真っ暗なんだ。夢にありがちなことで自分の体だけははっきり見える・なんてコトも無い。ちかちかと光の残像がちらつき始めるくらいに、瞼の裏を見ているように。

 そのうちに、戻ってきていたはずの体の感覚がまた消えてくるような気がしてくる。それもそうだ、どんなに体を動かしても目には見えないのだから。



 今、手を握ったはずだ、顔の前で。

 見えない。

 今、足を折ったはずだ、しゃがむように。

 見えない。

 思いっきり息を吸い込んでみる、そしてしばらく止めてみる。

 感じない。




 俺は今ここに存在しているのだろうか。もしかして寝ている間に消えてしまったんじゃないだろうか。そんな思考にまで至る。

 そうして光が欲しくなる。俺を照らしてくれ。どんなに微かでも良い少しでも良い、ただ指先一本照らすだけでも良いんだ、そこに俺が見えるなら。


 何も見えないから地面も分からない。くらくらと眩暈が襲い、それでも何も感じず何も見えない所為で倒れることも出来ずに俺は見えない手で見えない頭を抱える。抱えたはずの頭は何も感じなかった。
 声を出そうともしてみる。
 確かに出したはずなのに、耳には何も届かない。
 耳に痛いどころの静寂ではない。耳から頭の芯まで、体の奥まで詰まっていくような、どろどろまとわりつくような静寂だった。だんだん呼吸すら困難になってくる。ああ、肺まで消え始めたのだろうか。































 光は結局最後まで差さない。
 ただ、夢の終わりは、世界の始まりは。






















 「法師さま、寝坊―!」

 半ば苛立ちすら含んで、酷く現実味を帯びた、それでも闇より光より強い声。









































 ぱち、と目を開ける。とするとさっきまではやはり目を閉じていたのだろうか。それとも眼球まで闇に漬かっていたのだろうか。


 どちらでも良い。

 今ここには、確かに光が溢れていた。



 「すっごい寝汗。悪い夢でも見た?」
 どこから持ってきたのか、彼女の手には白い手拭い。短く礼を言って受け取り、額に当ててみる。あらかじめ濡らされたそれは、ひんやりとして心地良かった。
 「んー…悪いと言えば悪い、ですね」
「何それ」
説明になってないよ・と顔をしかめる珊瑚をしばらく見つめ、それからちょいちょいと手招きをした。いつもの如く、きょとんしながらそろそろと近づいてきた彼女が手頃な距離まで来ると、そこで軽く引いて寄せた。出来るだけ広い面積、彼女と触れられるように、強く。
「ちっ、ちちちょっとッ、朝っぱらから何考えて……」
「こうして…」


 じたばたする珊瑚をほぼ無視し、
「…こうして自分や、ひとの存在をかけがえなく思えることを考えれば、良い夢のよーな気もするんですよね」






 不意に、暴れていた珊瑚の動きが止まる。そしてまじまじと至近距離にある弥勒の顔を見つめ、それから、




「分かった!法師さま、熱あるんだ!!」



















 一拍置いて、弥勒は弾かれたように笑い出した。

 もしかすると本当に熱に浮かされているのではないかと思うほどに愉快そうに、彼は笑ったのだった。

















                               ---------------------End.
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 短い割に今見ると結構好きです; 私の小説の欠点は蛇足が多いとこだと思ってるので…あんまし無いかな、みたいな(そうか?)
 これも珍しい夢ネタ。結局私は夢ネタが苦手なんではなくて、夢見た相手を優しく慰めるってのが苦手なんではないか・と思います。なんか…見ててむず痒いっていうか(笑)