『初夢』















 「かごめー、そろそろ寝なさーい。」
「はぁーい。」
「姉ちゃん、姉ちゃん。」
「何よ。」
「今年こそはさ、初夢忘れないで、僕に教えてね。」
 わくわくしながら言ってくる弟にあー分かった分かったと生返事をし、かごめは部屋に入った。



 初夢、か。どうして毎年覚えられないんだろう。

 そんな風に考えたがすぐに忘れて、布団を頭まで引き上げ、かごめは目を閉じた。















 夢を見た。
 色んな動物が出てくる夢だ。

 白い犬、金色の狐、黒い兎に赤い猫。

 そんなものたちが浮かんでは消えて、そして猫の後に人間が出た。髪の長い、巫女装束の女の人だ。



 ――…明日からくる、バイトの人かな。気のせいか何か、あたしに似てるかも知んない。




 そんなことを思っているうちに女も消えて、そして最後に。
















 「……。」

 がば、と起きる。窓の外の空は、もう白み始めていた。









 「あ、姉ちゃーん。見た?夢。」
「んー…見た。けど、あんまし覚えてない。そうだなぁ…最後になんかヘンな物見たわ。」
「ヘンなもの?何、それ。」
「それがね……」






 大真面目に考え込みながら、



「白いサルの毛皮かぶって、背中にクモ貼り付けてる茶色いタコ。」































 森があった。
 大きな森で、中ほどに大きな大きな木があった。
 木には、赤い衣の少年が磔にされていた。


 彼は夢をほとんど見なかった。
 ただ時々、本当に時々、ちらちらと舞う緑色の蝶を見た。






 それは“記憶”の内には入らず、どこにも残らなかった。



























 「旦那ぁ、もう新しい年も二日目に入りますね〜…」
「そうだな」
「んじゃ、あっしは寝ますぜ。」
「あぁ。俺も寝るよ。」
 そして弥勒は目を閉じた。近くで狸が寝息を立て始めるのが聞こえた。











 夢を見た。
 そこに風は存在せず、彼は初夢があの風でなかったことにほんの少し安堵した。

 真っ暗だった。けれど夢にありがちなことで、自分だけははっきりと見えた。


 突然、真白い犬が現れた。その背には緑色に輝く蝶がとまっていて、犬はそのうち消えた。その後ろを金色の何やらふわふわしたものがついていって、やっぱり消えた。
 同じように突然、赤い目をした猫が現れた。黒い模様のついた足でそれはとてとてと歩き、そして「誰か」の足元で止まった。その「誰か」は長い髪を高く結った女で、黒ずくめのようだった。後ろ姿で、顔も何もよく分からない。


 女がほんの少しだけこちらを向いた。ふっと微笑った口元が見えた。肌が異様に白くて闇に映える。




 手を伸ばした瞬間、女は猫と共に真っ赤な炎になった。その炎がぐあっと向かってきて、不思議なことに丁度良い温度のその熱に囲まれた瞬間、目が覚めた。















 「旦那、旦那。」
「ん…?あ、ハチか。」
「珍しいですね、旦那がこんなに寝るなんて。」
「あぁ…夢を、見ていた。」
「へえ。どんな?」
「……忘れた」


 何か、とても大事なものを見た気がするのだけれど。




 結局、弥勒は思い出さなかった。




























 「琥珀、そろそろ寝な。父上たちにまともに付き合ってたら三が日中ずぅっと徹夜で騒がなくちゃいけないよ。年の初めは必ずどんちゃん騒ぎって決まってんだからね」
「んー…あ、姉上。」
「なに?」
「初夢ってさ、大晦日に見るの、元旦に見るの?」
「へ?…うー……父上―。」
 良く分からず父を呼ぶと、案外早くやって来た。
「なんだ?」
「初夢って、大晦日の夢ですか、それとも元旦の??」
「…元旦だな。」
「ほんと!?」
「…、…多分……」
「………だろうと思った」
 呆れ気味の姉に対し弟は無邪気な安堵の表情を見せた。
「良かったー。俺、昨日、覚えとくの忘れちゃったんだ。」




 今日こそ覚えるぞと意気込む弟に、姉は一言、寝ろと言った。

















 夢を見た。
 そこは真っ暗で、なのに足元だけは見えた。真っ赤な地面。いや違う、闇から成った地面の上にどろどろと赤い液体が溜まっているだけだ。
 彼女は血だまりの中でどうするでもなく立ち尽くしていた。道が無いのでただ立っているしか出来なかった。

 そのうち突然光が差した。赤、緑、黄。色とりどりの光はひらひら揺らめきながら動き、細く続く道を照らした。照らされた道は白く、そしてそれ自身輝いて見える。血には濡れていなかった。


 血が気持ち悪いのでとりあえず道に出た。光の行くとおりに歩いていくと、道の真ん中に黒い固まりがぽつんと見えた。何かと思えば黒い兎だった。大人の兎と言うにはまだ幼く、しかし子兎と言うにも大きい兎だった。真っ黒い毛並みに赤い瞳。
 捕まえようとすると、ぎりぎりまでこっちを引き付けて、なのに近くに寄ればするりと逃げた。
最初はなんとか捕まえようとやっきになっていたが、そのうちに相手が酷く怯えていることに気付いた。細かく震える柔らかい毛先。追いかけるのをやめてあげた。
 珊瑚はもう追わずに膝を抱えて座り込んでしまっているのに相手はまだ怯えているようで、しかしそれ以上彼女から離れようとはせず、それどころか少しずつ近づいてきた。最後には膝にぴょんと乗った。少しためらった後、彼女もその黒い背中を撫でようと手を置いた。優しく、毛並みに沿って撫でてやった。

 紅い瞳が気持ち良さそうに少しずつ細くなっていき、そしてきゅっとつむられた。黒の中から赤が消えた瞬間、目が覚めた。














 「琥珀―、起きな!もう朝だよ。」
「うー…姉上、ヘンな夢、見た。」
「どんなの?」
「なんかね、真っ白いんだ。周りがさ。そんで、足を進めればすごく大切な何かがあるって解ってるのに、でもそれを見つけるのがなんだか怖くって、俺、ずーっと真っ白い中に立ってるの。そういう夢。」
「ふーん…」
「俺、進むべきだったのかなあ?」
「さぁね。でもきっと進まなきゃ何も無いままなんだから、やっぱり進んだ方が良かったろうね。」
「ん……あ、そうだ。姉上は何か夢を見た?」
「あー…見たけど…良く覚えてないな。」
「えーっ、そんなぁ」
「だってねぇ…なんか、とっても綺麗な夢だった気はするけど。でもちょっと恐かった気もする。」
「どっちさ。」
「分かんないよ。…でもね、きっと、」
ふっと微笑って、
「きっと、あれは正夢になるんだ。勘だけど、多分当たるよ。――あれは、今年のあたしの未来だと思う。」




















 彼女の勘はしっかりと当たった。
 それが彼女にとって幸だったのか不幸だったのかは、きっと誰にも判断は出来ないだろう。

















                              -------------------End,
                             ----------And A Happy New Year!!

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 お正月フリー小説です。言わなくても分かるわな(笑)
 お正月かーどんなんが良いかなー?と、色々思案していたのですが、ちょうどぽっと浮かんだ夢のネタがあったのでそれをみんなの初夢ということにすりゃ良いだろうと。実は最初は弥勒の夢しか思いついてませんでした(笑) そっから一生懸命頭ひねって、かごめ嬢や珊瑚嬢の夢も考えたわけです。犬くんは…決して投げたわけじゃないんだよ〜(胡散臭いけどほんとですよ;)

 七宝ちゃんがいないのはめんどくさかったとも忘れてたともいえます…どちらにしても本気ですいません(土下座しろ)