『食事風景会話(喜)劇』










 「……なーんか、足りないと思ってたらさぁ……。」
「ああ?」
「はい?」
「え?」
「なんじゃ?」
緑色の、この時代には有り得ない服装をした少女の突然の発言に、一行全員が思わず声を上げる。
 そして、そのいずれの人もが手にしている物。
 汁碗。そして、一組の箸。

 なんの変哲もない、みそ汁。

「……足りない、ってなんだよ……。」
「うまい汁じゃと思うがのう……。」
「かごめちゃん、これ、美味しくなかった…?」
「いやぁ珊瑚、おまえの味付けは完璧ですよ?美味しいです」
「あんたには聞いてないって…。」
「珊瑚、顔赤―ぞ。熱でもあんじゃ……」
 次の瞬間響き渡った破壊音&床に飛来骨と共にのめり込んだ犬夜叉は、この際放っておこう。
「……で、結局の所なんなんじゃ?かごめ。」
「……な〜んか足りないって思ってたら……」
「思ってたら?」
「あぶらあげよ!!」
自信満々で紡ぎ出された言葉を、正確に理解できた者は誰一人いなかった。
 「………あぶら、あげ……?」
「なんじゃ、そのアブラアゲというのは。」
「七宝、知らないんですか。時折、精進料理として僧などが食すもので……が、かごめさま。そのあぶらあげが、なにか?」
訝しげに問う弥勒には答えず、かごめは一人納得顔でしきりに頷いている。
「材料は100%有機栽培なのに、なーんで現代のおみそ汁より劣るのかなーと思ってたのよ。なるほどぉ、油気が少なすぎたのね……どおりでさっぱりしてるわけだわ…。」
そして、突然すっくと立ち上がった。他の一行メンバー全員が、一瞬びくっと体を震わせる。
「な、なんだよ、かごめ……」
「そうと分かれば、早速あぶらあげを入れなくちゃ!」
「「「「…はいぃ?」」」」
四人の声を無視し、かごめはひょい、と珊瑚の膝から雲母を抱き上げた。
「珊瑚ちゃん、雲母借りるわね。じゃあね、犬夜叉。ちゃんとお昼までには戻るから。」
「お、おい。ちょっ、まっ………」
鈍い犬夜叉もやっと彼女のやろうとしていることを理解し、慌てた。が、時すでに遅し。紅く輝く炎の尾を引きながら、雲母はかごめを乗せて行ってしまっていた……。
 「……なんなんだよ……。」
握りしめた拳がわなわなと震えているのが、自分でも分かった。
 自分が何かをしたのか?アブラアゲ?んなもんはどうでもいい。
 とにもかくにも、その場に残ったのは、かごめが何処かに行ってしまったという事実のみである。
「………っかごめの、ばかやろ―――――――――っっ!!」

 犬夜叉の叫びは、さわやかな朝の澄み切った青空に、どこまでも響き渡ったという…。










 「さ――っ、これでどぉーだ!」
にこにこと満面の笑みを浮かべつつ、みそ汁を持った椀を皆に差し出す。あまりに支離滅裂な彼女の行動に全ての人々が手を差し出すことも出来ず固まった。
「…どう、と、言われても……」
「…ねぇ?」
「かごめ、その茶色いのが“あげ”なのか?」
「なんかすかすかしてそーでヤだな……」
それぞれに渋顔を作るメンバーに、失礼な・と憤慨する。
「絶っっ対美味しいんだから!一口食べてみなさいよ!気に入るわよ?」


 やっぱり脂気ってのは大事なのね〜入れてみてつくづく思ったわ見てよこの汁の艶を絶対そのままよりは美味しいわよ栄養価だって上がるんだし。
 矢継ぎ早に自己満足の説明と論拠とそして勧めを言うと、ずいとかごめは再度みそ汁を差し出した。
「飲んで!!」
もちろん、誰より食べて欲しい大事な人に。


 …などと言うとまるでロマンチックな恋愛小説の一説のようだが、その実、差し出されているのは欠けた木のお碗とそれに入った簡素な具のみそ汁、そして相手はこの上なく嫌そうに顔をしかめている。
 「……」
それは別にみそ汁が嫌なのではなく、単に想い人の不可解極まりない行動へのあからさまな不信感と言った方が正しいだろう。
 「さぁ!!」
再び、力強く椀が差し出される。犬夜叉はかなり長い間逡巡した後、やっと椀に口をつけた。そう、正に犬食い――いや失礼、単にかごめが椀を放す気配が無かったためにそうする他無かっただけだが、とにかく、そのまますすった。

 そして、

 「…美味ぇ。」
ぽつん、と犬夜叉が呟き、
「でしょでしょ!?」
かごめが喜々として叫ぶ。いや、言う。その様子を遠巻きに見ていた人々も、恐る恐るといった風に近づいてきた。
 「ほんとに?犬夜叉。」
「まぁ、そりゃ、精進料理として使われる普通の食材なんですしそうでしょうけどねぇ…」
「なんとなく不安じゃったが、それならまあ食ってみようかのう。」
「おいコラ待ててめえら俺を実験台にしやがったな」
「どうぞどうぞぉー!食べてっ。」
 かなり怒った表情の犬夜叉を完全に無視してかごめは満面の笑みと共に椀を差し出す。そしてそれを三人とも受け取り、
「じゃあ、まぁ…」
「いただきます。かごめちゃん。」
「いっただっきまーす!」
箸をつけた。そして三人同時に、
「っ!?」
「っへ…」
「きゃぅっ!!」
吐いた。


 少し間が空く。


 「…あれぇ?」
「どしたんだ、お前ら…」
きょとんとする二人に、弥勒と珊瑚の恨めしげな視線。七宝の方は少し離れた川辺で一生懸命けろけろやっていた。
 「…犬夜叉。お前……」
「一体どんな味覚してんのさ、あんたはっ!」
目尻に涙を浮かべて掴みかかってきた珊瑚に、犬夜叉はただただ驚愕の表情を浮かべて
「へ?いや、その……なんかヘン、だったか?」
かなり真面目に、聞き返した。被害者たちは怒鳴る。
「なんかヘンも何も、おかしいだろが!どぉして味噌が調味料のはずの汁が菓子みてぇに甘いんだよっ!!」
「かごめちゃん、砂糖と、塩かダシかなんかを間違えて使ったね!?」
「……ぅけ。」

何も言えず呻いたのは七宝である。


 「…え……あー…そうかもしんない。」
少し考え、案外あっさりと肯定した少女に、脱力する。
「…はぁー……あぶらあげどころじゃないね、これ…」
「かごめさま、今度あぶらあげ持ってきたら、ちゃんとしたの作ってください。」

 気のせいだろうか蒼い顔をした三人に、残りの二人はきょとんと顔を見合わせた。


























 後日かごめが作ったみそ汁の味、これはこれでツッコミ所満載だったのだけれども、それはまた別のお話。













                                     ----------END.
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 なんか思い起こすのも馬鹿馬鹿しいほどどうでも良い思いつき(:戦国時代でみそ汁作っても脂気つけるもの何も無いんじゃねーの?という思いつき)から書き始めて案の定詰まったネタでござりました(汗) そしたら以外にもコメントとか頂けたので…もともとそう長い話じゃないし、よっしゃぱーっと仕上げてしまお!と調子に乗って書き上げちゃったんです(笑)

 滅多に無い無駄に明るい話なので、個人的にまぁ楽しんで書けたんですが。。ホントくだんなくてすいません……;;