雪のように冷たく火のように赤く










 雪が、降っていた。ただ静かに、周りを白く染めていた。

 「あ〜〜〜っ、もー知るかーっ!!」
「お―――っそうかよっ!?へっ、こっちだって知るかってんだ!!」
喧噪を繰り返しているのは、当然のごとく緋の衣を纏った少年と、異国の服を身につけた少女………ではなかった。
珍しいことに、相手は紅白の小袖を身につけた少女の方だった。
「ちょ、ちょっとぉ………………。」
「二人とも、何もそんなに荒れなくとも………。」
「「うるさい。」」
凄まじい目で睨まれ、仁王のごとく冷たい声音の一言にそれぞれのパートナーも押し黙る。そして、当の喧嘩の本人はふんっとそっぽを向いてしまった。
 「………………ったく………………………。」
残りの仲間たちは、ほうっと溜息をついた。

 事の始まりは一刻ほど前。いつものように四魂のかけらをつけ狙う妖どもを一行揃って蹴散らしていたのだが、ほんの一瞬犬夜叉に隙が出来たのである。
「!犬夜叉っ!!」
気付いた珊瑚が咄嗟に飛来骨によって防いだからいいものの、本当に危ういところだったのである。珊瑚としては“助けてやった”のだが………………
 「な゛っ………珊瑚っ!!てめえ余計なことすんじゃねえっ!!」
「よっ、余計なことだとぉっ!?あんた、助けてやったってーのにどういう言い草だ!!」
「へん、あんなもん俺一人で充分なんだよっ!!変なとこで出しゃばってきやがって!!」
「なんだってぇ!?」
「んだよ、やんのかぁ!?」
「上等だよっ!!」
って、言い争いをしている間にも妖怪どもは押し寄せてくる。

「四魂のかけらをよこせぇっ……」
   だが………。
「「うるさいっ、黙ってろ―――――――――っっ!!!」」

ぐちゃっ、と嫌な音を立てて、十数匹の妖怪が一度に潰れる。怒りのままに、犬夜叉の拳と珊瑚の蹴りが炸裂したのである。普通なら刀でも歯が立たないのだが、それを生身の攻撃のみでやらかしたのだから他の妖どもも恐れをなして少し距離を置いた。
一方二人は、邪気に満ちた血肉でべとべとする手と足をぱっぱっと払いながら、未だに喧嘩を続けている。少し恐怖の色が浮かんだ妖怪共の視線にも、石になりかけている自分たちの恋人の様子にも一向に気づかない。お互いを睨みつけながら、今にも自分の武器を取って戦い始めそうな雰囲気だ。
「やだちょっと二人ともぉっ、落ち着いてよ―――っ!!」
もちろん、聞く耳持たずである。と、そろそろ痺れを切らし始めた妖怪共が一気に襲いかかろうとした。
「か、かごめさまっ!もうのんびりしてられそうもありません、風穴を開きます!!」
「かごめ、犬夜叉と珊瑚をどけるんじゃ!」
「ええっ!?えーと、えーと………………おすわりぃっ!!!」
「ふぎゃっ!!」
潰れた犬夜叉と突然地面に叩きつけられた喧嘩相手に目を丸くしている珊瑚とを必死に自分のいる側に引っ張り込む。瞬間、素早く弥勒が風穴を開いてとりあえず妖怪騒ぎは収まったのだが………。
 そのまま、喧嘩の方は今に持ち越しているというわけである。

 「…で、どうします?かごめさま。」
「どうって……どうしよっか。」
「取り敢えず、主戦力の犬夜叉と珊瑚がこんなでは旅を続けるのは無理ですな〜…。」
「そうねー、いくら弥勒さまがカバーしたって、あの二人がああじゃ危ないわよねー…。」
「かごめさま、“かばー”ってなんです?」
「…弥勒さま、別に今ここでそんなミニボケしなくっても……。」
「は?みに??」
「…もういいわ…だからね、要するに援護するってこと。“ミニ”は小さいってことよ。」
「ああ、成る程ぉ…。じゃ、結果的にどうするんです?」
「……………とにかく、この辺で旅は中断して、適当に仲直りさせちゃいましょ。」
「…賛成、です。」
 こうして、この後の一行の行動は決まった。まず、かごめがほんのちょっとばかり気分が悪くなる。何、ほんの少し息を荒くして手を水で冷やしておけば問題ない。

      (以下、その当時のメンバーのやりとり)
  「…犬夜叉…あたし……気持ち悪い………。」←演技。
  「やだかごめちゃん、手が冷たくなってるよ?」
  「なんだか苦しそうですなあー。」←演技。
  「犬夜叉、今日はこれくらいにして休んだらどうじゃ?」
  「はあっ!?ふざけてんじゃ…」
  「あーあー、だーから嫌なんだよね、心が狭いやつってさーあ?」
  「んだとおっ!?」
  「へーえ、反論の余地があるわけ。」
  「…よちってなんだよ。」
    (……馬鹿すぎるぞ、コイツ……。)←犬夜叉と珊瑚以外のメンバー心の叫び。
  「ま、取り敢えず決まりですな。」
  「さー行きましょ、行きましょ―――!」
  「こらかごめっ、てめー元気じゃねーか――――っ!!」
 こんな感じで余裕オッケー(どこがだ)。さて、まあ次は当然弥勒が長者の家にでも詐欺まがいの御払いで泊まりこむかと思いきや、意外にも野宿であった。何故か?

 色々と説得に好都合だから。


「色々と」は気にしない、気にしない。





 さて、見つけた山小屋になんとか腰を落ち着けると、またもや弥勒とかごめの密談である。犬夜叉と珊瑚の二人は相も変わらず口喧嘩を続けていたので、こっそりと小屋を出た二人には気づきもしない。ただ一人、七宝だけがほんの少し首をかしげた。
 「…さーて、どちらがやりますか。」
「やっぱここは女同士、男同士なんじゃない?」
「はあ…ま、それが妥当でしょう。」
「じゃ、行こっか。」
すっ、と二人は戻っていった…。
 「珊瑚ちゃーん。」
「え?」
「犬夜叉。」
「何だよ。」
「ちょぉっと一緒に水汲み行かない??」
「へ?あ、うん…。」
「ちょっとそこに座りなさい。」
「ああ!?くだらねー用だったらぶん殴るぞ!?」
「やかましい、黙って座ってろ!!」
いきなりキレて不良法師と化した弥勒に、無意識で耳を伏せた犬夜叉であった…。
 かごめと珊瑚が竹筒を持って小屋を出る。それが、開始の合図だった。
 「犬夜叉―、いい加減やめたらどうです?」
「何を。」
「珊瑚との喧嘩ですよ、喧嘩!!」
「なんでえ、結局それかよ。おめーには関係ねーだろーが。」
「関係なくはありません。いつまでも珊瑚がぴりぴりしていると、どーも手を出す隙が…。」
「…てめー本気で殺してやろーか?」
「遠慮します。」
即答。
「イヤ、だからね。私が言いたいのは、いつまでもつまらぬ意地を張らずに、いっぺんくらいは素直に謝ってみてはどうかと……」
「けっ、冗談じゃねーや!なんで俺があいつに謝らなくちゃなんねーんだよ!!」
「あのねえ、珊瑚だって色々と可愛い所もあるんですよ?そんなまるで敵みたいに…。」
「へん、おめーは珊瑚に惚れてっからんなこと言えるんだよっ。(ここで弥勒がぴくっと反応したことには当然気付く筈もなかった)俺から見りゃあんな女、色気はねえし気は強えし口は悪いし………え゛っ!?な、なんで弥勒が怒るんだよ!!??」
「…てめえ、人の相手に向かって………」
ばき、と手が鳴った。わずかに犬夜叉も後ずさる。
「悪口延々と並べ立てんじゃね――――――っ!!!」
「っぎゃああああああああああ―――――――っ!!!」
  十分後。
「…あーあ…。」
深ーい溜め息、ひとつ。
「説得するはずだったが、キレちまうとはマズかったなあ…。」
そう言いながらも、彼が座っているのはたんこぶだらけになって気絶している犬夜叉の体の上である。原作内で「極悪非道」とののしられるのは大抵奈落か殺生丸であるが、実は彼にこそふさわしい表現なのかもしれない。
「さーて、ここまでさせた当の珊瑚のほうはどうかねえ……。」(珊瑚の所為じゃないし)
  時を巻き戻して、水汲みのために小屋を出たところから。
「ねー珊瑚ちゃん、機嫌直せばぁ?ほら、犬夜叉だって悪気があるわけじゃないのよ。ただほんのちょっとだけ意地っ張りなだけで……。」
「それはかごめちゃんが見たからそう見えるだけだよ!!ったく、誰のおかげで怪我一つなかったと思ってんだか、あの馬鹿。」
こちらはまだ理性的な交渉が行われていた。ただし、進展はしていない。
「で、でも優しいところもあるし………。」
「どこが。」
一言の元に切り捨てられ、思わず肩を落とすかごめ。
 と、そのとき、道の向こうに見慣れた影が見えた。
「弥勒さま…。」
「かごめ様。水汲みは終わったので?」
「うん、珊瑚ちゃんが持ってくれてるの。」
他愛もない会話をしながらさりげなく近づき、密談を交わす。珊瑚は怒りで気づきもしない。
「そっち、どお?」
「いや、全然。かごめ様は?」
「こっちも駄目…話もまともに聞いてくれない。」
「交代、ですな。」
「了解。」
 「珊瑚ぉー、これからちょっと森の中散歩しません?桶持ったままでいいですよ。」
「ええ?でも、これ重いし……。」
「いいんですよ、私が持つんですから。」
いいながら、あっという間にひょいと桶を珊瑚の手から取ってしまった。
「あっ、いっ、いいよっ、あたし持つからっ!!」
法師の笑顔に早くも頬が赤くなっている珊瑚である。
「そうはいきませんなー、さあ、行きましょうか。ちょっと道を外れていったら面白いんですよ。」
「返せってばーっ!!」
言い争いながら、いつのまにか珊瑚の足は弥勒とともに森の奥へと引き返し始めていた。珊瑚はまったく気づかず、必死で法師から桶を取り戻そうとしてぱたぱたと動いている。弥勒が珊瑚に気づかれないよう、そっとかごめに振り向いて、小さく片目をつぶった。
 「…さっすが、弥勒さま………。女の子の扱いに慣れてるわ……。」
感心している場合ではない。自分も頑張らねばと、かごめはぎゅっと拳を握って気合を入れた。珊瑚がこのあとどうなるかは全く思考から抜け落ちていたが…。

 「ねー珊瑚、まだ犬夜叉のこと怒ってんですかー?」
「当たり前だろ。」
すでに桶を取り戻すのは諦め、おとなしく弥勒とともにてくてくと歩いていた珊瑚だったが、弥勒が本題に入れば途端に語尾がとがった。
「はあ…そんなに怒ることですかねえ………。」
ため息混じりに空を仰いだ弥勒をキッと睨み、珊瑚は矢のように鋭い言葉を言い放つ。
「何よ。こっちは善意で助けてやったっていうのに、あいつったら怒ってくるんだよ!?信じらんない!!」
「しっかしねえ、男にも意地ってもんがありますから…。」
「意地ぃ?なんだよ、それ。」
まったく意味がわからない、という風に首をかしげる珊瑚をふっと見やると、はあ〜とため息をついた。
「だから、ね……」
する、と珊瑚の腰に手が回り、そのまま弥勒との距離がぐんと縮められる。珊瑚の頬にまた朱が散ったが、それもいつもとは違う。なんだか胸が鼓動でいっぱいになって、頭の芯がぐらぐら揺れるのだ。
「な、何……」
「ね、例えば。」
水桶を握っていた手がぱっと開かれ、だん、かららと大きな音を立てながら水がこぼれた。横倒しになった桶がころころと茂みの方へ転がる。そしてその音で珊瑚が一瞬体を震わせた瞬間、弥勒の両腕は彼女を覆っていた。
「ち、ちょ……っとっ。」
「独占欲が強かったりとか。」
さらに強い力を込められて、珊瑚は完全に身動きが取れない。どきどきどきどき、心臓が逸ってはやって止まらない。
いや、止まったら死ぬのだから止まらないに越したことはないのだが。
「それに、まあ、色々あるんですけど……何よりも。」
ふわ、と首筋辺りに彼の体温が感じられて、また一段と頬が、いや顔中が熱を帯びてくる。自然に体の筋肉が硬直していき、抱き寄せられたときに胸の前で揃えたままになっていた両手が勝手に袈裟を握り締めた。
「放せ…って、ばっ!」
「やっぱり、男ってのはね。女に助けられるっていうのは癪に障るんですよ。」
軽く首筋にふうと息を吹きかけた。ぞわっと背筋に震えが走って、どんどん感覚が麻痺していく。
「…だから、犬夜叉の気持ちもよく分かる。」











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 タイトル、意味があるのか無いのか。かなりいきあたりばったりで適当につけましたね、確か。とりあえずただのベタ甘なんで…どうも苦手だ、ラブラブ。結局意味不明なんだ、全体通すと。

 そういえば、今読み返してみるとこの頃ってかなり恥ずかしいこと恥じらいもせず堂々書いてるなあ。今なら絶対かけないって(笑)