『よかった。』 ---4.
「結っっ局、村じゃなーんの手がかりもなしかよ!!もう三日も調べ続けてんだぞなんか出て来いよ!!」
「しょうがないじゃない、封印解けちゃった竜の被害でみんな疲れ果ててた上に大雨だったんだから。そりゃ誰でも家にこもるわよ」
「見た目綺麗だからってあんな暴れ竜奉るから悪いんじゃ」
「こら、七宝ちゃん……」
苛付く犬夜叉と可愛い顔して毒吐く七宝、この二人をたしなめるのはかごめ。普段一緒にたしなめてくれる人々のうち一人は行方不明で一人はそのもう一人を探すのに必死で上の空(表情には一ミリも出さないにしても)だ。当然のようにかごめのため息は増えていた。
「三日だぜ三日。一体どこ探しゃ良いってんだよ…好い加減川底さらっ」
「犬夜叉おすわり」
耳障りな悲鳴を残して地に沈んだ犬夜叉にはお構いなしで弥勒に話しかける。
「弥勒さま、どうする?…もう少し下まで、行く?」
「…まあ、その方が良さそうですね。これ以上ここに居てもしょうがないし」
肩をすくめて言った弥勒にそうね・と同調し、じゃあ川沿いに少し下ろうと言った。歩き出す少女の後ろを、悪態つきながら犬夜叉もついていく。彼だって、本気で川底をさらいたいはずは無かった。
「…あんまり下流に行くのも嬉しくないんですけどね……」
「え?なに」
ふっと呟いた弥勒に、きょとんとしてかごめがその顔を見上げる。するとぼんやりした顔つきのまま、
「下に行けば行くほど、流れた距離も伸びることになるでしょ。…その間、生きていられたかどうか……」
かなり絶望的な言葉を吐いた。ぽかんとしてかごめは弥勒を見つめる。弥勒の表情は微塵も変わらない。
「……。」
てくてくと歩きながら少し考え込む。と、不意にかごめは顔を上げて、
「ッぃて!!」
ぱこん・と軽く弥勒の後頭部を殴りつけた。ぎょっとして犬夜叉が足を止める。
「真顔で変なこと考えないの。」
「…すみません」
「珊瑚ちゃんだもの、水の中でだって多分一時間くらい平気よ」
「……それはどうかと…」
「だって土の中から自分で出てきたのよ。大丈夫。絶対、だいじょうぶなんだから」
「……」
「弥勒さまが信じてあげないで、どうするの?」
「……はい。」
苦笑混じりに答えた弥勒に、よし・と笑って答えた。軽い歩調で先をゆく。
「…かごめ様は、優しいですなぁ」
「私を誉めたってなんにも出ないわよ」
「知ってますよ」
「あ、家だ」
「こんな所に一軒だけ?」
「妙ですねぇ」
「ごちゃごちゃ言ってたってしょーがねぇだろ。あるもんはあるんだからよ」
川沿いにひたすら歩くこと約二時間、見つけたのは茅葺の小さな家だった。傍には簡単な畑があり、井戸もある。
「一応誰か住んでるみたいね」
「まぁ何も無いと思うが…一応声かけてみますか」
そうしましょ・とかごめが受けた。足を速める。その家の周りはちょうど森が切れて、日の良く当たる住みやすそうな場所だった。
「あったかいのう」
七宝が嬉しそうに言って、
「あれ?人がおる!人がおるぞ弥勒!!」
また言った。確かに、今しがた建物の蔭から誰か若い女が出てきていた。淡い黄色の小袖。頭には白い布を普通の村娘よろしく巻いている。畑にしゃがみこみ、何か作業をしているようだった。
「だから、人が住んでるだろうって言ったじゃないですか」
「あの人だけかな?住んでるの…」
「女一人よりは若夫婦と考えた方が自然ですが…どうでしょうね」
「それもそうね…って、犬夜叉。何ヘンな顔してんの?」
「…?…いや……」
「ヘンなの。…すみませーん!」
なんだか首を何度も傾げている犬夜叉を無視し、大声で声をかける。もう女はだいぶ近い。
「あの、人を捜してるんですけど!」
もう一度、言った。すると女は気が付いたようで、ふいと顔を上げた。
「はい?」
当然のように、不思議そうに訊き返す。そしてかごめもまた同じ問いを繰り出すべきだったのだが、…ぽかんと口を開けたまま、固まっていた。もちろん他の人々も同じである。
「何―?クロちゃん、どしたの。なんかあった?」
「あ、すえさん」
もう一人、家の中からひょいと若い女が顔を出した。自分に声をかけたにも関わらず答えた途端固まって何も言わなくなってしまった“へんな人たち”に、少し困っていた彼女はほっとしたように笑う。
「“さん”はやめてって…あれ?何、この人たち」
「わかんない。知らない人たち」
「知らない人ぉ!?」
思わずかごめが大声を出していた。犬夜叉も、はぁ?・と口を大きく開けている。
「な…何?あの……何か?」
若干怯えさえしながら恐る恐る訊いた彼女の横で、すえが何かを悟ったように目を丸くした。
「…あー…もしかしてクロちゃん、この人たちの知り合いなんじゃない?全部忘れてるんだもん、そういうことだってあるよ」
「……あ。…そう、かも…しれない」
「わす…?ちょ、あの、すみませんっ、どういう…」
混乱した様子で噛みながら訊いたかごめに、平然としてすえは言った。
「あのね、あたし馬鹿だからあんまり上手く説明できないし手っ取り早く言っちゃうけど、この子なんにも憶えてないんだって。自分のこと全部っていうか目が覚める前までのこと全部!名前も知らないからあたし勝手につけちゃってそれがクロ。ちなみになんで一緒にいるかというとこないだ大雨の時に川岸で倒れてるのあたしが拾ったから。…解った?」
返事は無かった。みんなが固まっている。
重い沈黙の中、あまり何も分かっていない彼女、…珊瑚がそっと口を開いた。
「…あの、ごめんなさい、ほんとに何も覚えてないんです。…私、あなた達と知り合いでしたか?」
彼女にとっては何気ない問いだったろうが、彼らにとっては重過ぎる問いだった。
“知り合いでしたか”?そんなもんじゃない。
“仲間”だったんだ。
今の彼女にそう言ったら、…彼女は、どれぐらいその重さを理解してくれるんだろう。
------------To Be Continued.