『よかった。』 ---7.












 「もうここ来て三日か」
「竜退治から数えると、一週間近く経つのねー…」
ぱかん。澄んだ音を立てて薪がきれいに割れる。犬夜叉は小さな手斧を軽く振って割り、かごめが割れたものを隅にまとめていた。
「で、珊瑚は相変わらず。」
「…どぉしよっかなぁ〜もー。」
あーあ・といった風にべたっと仰向けに寝そべる。と、わりかし呑気な声が聞こえてきた。
「法師さまー、木。」
「はい。」
ぽん・と珊瑚が木片を放る。石に腰掛けた弥勒がそれに向けて手斧を振り、ぱかん・と真っ二つにする。
「すごいねぇ法師さま」
「お前も出来ると思いますがね」
「そうかな?」
「そうですよ」
「…なんであんたらそんなに幸せそうなの?」
「え」
半分呆れながら歩み寄って言ったかごめに、二人してきょとんと顔を見合わせる。
「そんなつもりはないんですが…」
「見えるもんは見えるのっ!」
思い切りいらいらしながら言ったかごめに、珊瑚はびくりと肩を震わせて弥勒はあはは・と笑う。それを見て、すえも笑った。
 「…ね、このぶんなら薪割りすぐ終わるよ。四人も要らないし、かごめちゃんと犬夜叉さんは街に行ったらどうかな」
「街?」
街の存在はすえからは初めて聞いた。きょとんと顔を見合わせる。
「うん。あたしはあんまり行かないんだけどね…かごめちゃん達は旅の人だ。ずっと此処にいるのも退屈だろ?行って、必要なものや面白いものを買うと良い」
にっこり笑って言う。かごめはすぐに喜び勇んで賛同し、ねっ良いでしょ犬夜叉・と隣に呼びかけた。犬夜叉は、しばしすえを睨める。
 特に他意があるようには見えない笑みだった。
 「……しょうがねェな、留守頼むぞ弥勒。七宝も」
「え゛!?…おら……も…」
「んだよ。」
怪訝そうな犬夜叉。対して、かごめは直ぐに思い当たったように笑みを浮かべた。
「七宝ちゃんも行く?お買い物。」
「あぁ?なんでこいつまで――…」
「おすわり」
轟音。
「…行く?七宝ちゃん」
「おう!!」
目をきらきらさせながら頷きあうかごめと七宝を尻目に、ぱかん・と呑気な音を出して隣で弥勒が薪を割る。
「犬夜叉―、生きてますかー?」
「…っるせ……」
 地べたで呻くように、犬夜叉は応えた。



























 「すえ殿。薪、割り終わりましたよ」
「あー、ありがとう法師様。裏に置いといてくれるかな」
「分かりました。珊瑚、そっち貸して」
「はい」
割り終わった薪をからからとまとめ、手渡す。そしてそれを彼の方が家の裏手に置く。その一連の淀みない動きを、すえは中からじっと見ていた。

 一歩、踏み出す。

 「――…痛っ!」
唐突に聞こえた悲鳴で、弥勒と珊瑚が顔を上げる。見れば、家の入り口の所ですえが倒れていた。
「すえさん!」
「大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄った二人に、平気・と笑って言う。
「ちょっとつまずいちゃって…大丈夫、立てるよ」
「待った」
明るく言うすえにぴしゃりと言って、それから彼女の足側にまわった。軽く触れる。
「腫れてますよ」
「…あ……」
「捻ったのかな」
「多分。珊瑚、何か布と棒」
「うん」
ひどく簡潔なやり取りの後、一旦家の中に入った珊瑚がすぐ応急処置用具を一揃い持ってくる。よし・とだけ言ってそれを受け取り、手早く巻き始めた。
「あまり動かさない方が良いな」
「冷やさなきゃ…」
「濡らした何かで充分だ」
「うん」
「あ、待った!」
そのままずんずん進みそうだった弥勒と珊瑚の会話に慌ててすえが割って入る。それから、
「あのさ、あっちの森のちょっと入ったところに、こういうのには向いた薬草があるんだ」
「薬草?」
「うん。だからそれ採って来てくれたほうが嬉しい」
少し考える。すえが言い足す。
「この時期だと葉が赤く色付いてるからすぐ分かるよ。そんなに深く入る必要もない」
「……」
 また少しの逡巡の後、弥勒は頷いた。
「分かりました。じゃあ珊瑚、頼みます」
「うん」
珊瑚が頷くのを見ると、室内の壁に立てかけてあった錫杖を取り、
「なるべく早く戻りますから」
言い置いて、ゆったりとだがそれなりの速度で森へと歩き去っていった。その後ろ姿を見送る。
「…面白いね本当に」
「え?」
「あの法師様、あれだけ人に接する時丁寧なのに、珊瑚ちゃんにはお礼も言わないんだ」
「…え……」
少し、驚いたように目を丸くする。それから少し考えて、
「…ううん。多分あたしだけじゃない。…かごめちゃんや犬夜叉さん、七宝とか、も、だよ。あの人たちみんなそうなんだ。」
「……」
今度はすえが目を丸くした。それから、ふっと微笑う。
「…ね、川へ行こう」
「川?」
「うん。ほら、魚捕るやつ仕掛けといたんだ」
「そうなの?…でも、怪我……」
「大丈夫大丈夫。ていうか、だから珊瑚ちゃんに来て欲しいんだよ。川から仕掛け取り出してもらわなきゃ…こんなの、ゆっくり歩けばなんでもないって。ホントに軽く捻っただけだし」
「本当?」
目を丸くして訊き返しながらも、珊瑚は素直に頷く。それを見ると、すえはにっこり笑って、半ば強引に珊瑚の手を引っ張った。


























 「…はい、これおまけ」
「ありがとーおじいさん!」
人の良さそうな老人に満面の笑みを向け、品物を受け取る。
「はい、持っててね犬夜叉」
「また俺かよ!?」
「どう見たってお主が一番力余っとるじゃろ」
「んだとてめ―っ!!」
「犬夜叉、おすわり」
「んげっ!」
地面にのめりこんだ犬夜叉からつんと顔を背けたかごめに、老人がくすくす笑った。それから、思い出したように訊く。
「そういえばお前さんら、旅の人か?」
「あ、はい。…でも、今はちょっと訳あって、川上の方の家に泊まらせてもらってるんですよ。」
「川上?…ああ、隣村かい。よくこんな所まで降りてきたねぇ」
「え?あ、いえ。そこと、この街の間に、少し森が拓けたとこがあるでしょ?そこに建ってる一軒家です。娘さんが一人で…」
「はぁ?…家?」
「?はい。川を下ってたら行き着いたんです…村からはだいぶ離れてたから、本当に一軒だけぽつんとある感じで」
「冗談のつもりかね娘さん。ここから村まで、川沿いには家なんか一軒も建っとらんよ」
「ええ?」
「間違いない。ここらはただでさえ川が荒れやすくてな、土の弱い場所が多いんじゃ。そんな森の真ん中に一軒だけなんて、少し雨が降ったらあっという間に流されちまうよ」


 かごめと犬夜叉は顔を見合わせた。


















                                ------------To Be Continued.